初心者セッション向けの曲とは?
- 2018.03.19
- セッション入門ガイド
「ジャムセッションに参加してみたい! でも、どんな曲を演奏すればいいんだろう?」
初心者の方にありがちな悩みですよね。セッションに行ったことがない人にとって、セッションの現場ではいったいどんな曲が演奏されているのかというのは気になるものだと思います。参加するからにはそこでよく演奏される曲を練習しておいて、セッションではその曲を楽しんで弾けるようにしておきたい! ともお考えかもしれません。では、セッションでは実際にどんな曲を演奏するものなのでしょうか。
どんな曲を演奏すればいいのか?
その答えは、極論すれば「何の曲でもいい!」です! 音楽とは自由にあなたを表現するものですから、「この曲をやらなければならない」、「あの曲はダメだ」なんていうのは本来ナンセンスなのです! たとえ超初心者の方であっても、どうしても「スペイン(Spain)」がやりたい! あるいは「ドナ・リー(Dona Lee)」がやりたい! というのであれば、その曲をしっかり練習してセッションに臨めばいいのです。
……といっても、それではこの記事をお読みのあなたが求めている情報にはなりませんよね。「音楽が自由だってことは知ってるよ! そこは分かった上で、でも、ほら、初めてのセッションでもそれなりに演奏したいし……それにやっぱり失敗したくないじゃない? だからセッションでやりそうな曲をあらかじめこっそり練習しときたいんやー!」って声が聞こえてきそうです。私も初めてセッションに行った頃はそんな気持ちでしたから(笑)。そこでこの記事では、自由である音楽の広大な平野にあえて「初心者セッション向けの曲」というガイドを設けてみることにしましょう。なお、ここでは話を分かりやすくするために、「あなたがこれからジャズの初心者向けセッションに参加する」という設定で、そのための曲についてお話したいと思います。初心者向けセッションに参加するということは、あなた以外の参加者も初心者が多い可能性が高いということでもあります。セッションではあなた一人で演奏するのではありません。たとえあなたが大好きな超難曲を練習して、その曲はうまく弾けるようになって初心者セッションに行っても、他の参加者は一緒に演奏することをためらうかもしれません。もちろんセッション・ホストは伴奏をつとめてくれるとは思いますが、それだけではセッションの楽しみを十分に味わったことにはなりません。他の参加者と一緒に演奏することこそがセッションの醍醐味なのですから。ですので、そういった意味でも「初心者セッション向けの曲」というものを考えておくのは悪いことではないのです。
初心者セッション向けの曲に見られる傾向
具体的な曲名を挙げる前に、まずその「初心者セッション向けの曲」とはどういった傾向を持つ曲なのか、ということを考えてみましょう。その傾向を知っておけば、下に挙げる曲以外であなたがセッションで演奏する曲を探す際の参考にもなりますので。(「いや、今すぐ具体的な曲名を教えて!」というせっかちさんは、下の「初心者セッション向けの曲リスト」にワープしてください(笑)。)
まず、その傾向は大きく以下の二つに分けられます。
- みんながよく知っている曲
- 難しくない曲
ここまではどなたでも想像がつくと思いますが、この二つの傾向をさらに詳しく考えてみましょう。
「みんながよく知っている曲」とは
「みんながよく知っている曲」とはどういうことでしょう。単純に
「多くの人が耳にしたことがある曲」
と言い換えることができるかもしれません。ただ、あなたはこれからセッションに参加して“演奏する”のであって、“聴く”ための曲を探しているわけではありませんよね。では、演奏するという観点から「みんながよく知っている曲」とはどういうことなのか。それは、
「セッション用の曲集に載っている曲」
ということになります。セッション用の曲集については別項でまた詳しく触れますが、簡単に言うと、スタンダード曲をセッションの現場で見やすいような形式で数百曲収録した本のことです。ここ数年の日本の(特に初心者〜中級者の)セッションの現場においては、『ジャズ・スタンダード・バイブル 〜セッションに役立つ不朽の227曲』という本(通称、『黒本』)がそのデファクト・スタンダードとなっています。
参考:『ジャズ・スタンダード・バイブル』
この黒本には、その副題にあるように227曲のジャズ・スタンダードが掲載されているのですが、ではその227曲全てが「セッションでよく演奏される曲」、さらには「初心者セッション向けの曲」であるかというと、そうでもないのです。もちろんその多くはセッションでよく演奏される曲であることに間違いはないのですが、そんなに演奏されない曲も混じっています。また、「初心者セッション向けの曲」ということになるとさらに絞り込まなければなりません。そこで、この黒本の中から初心者セッション向けの曲を選ぶために、「難しくない曲」について考えてみることにしましょう。
「難しくない曲」とは
「難しくない曲」というのを少し具体的に言い換えてみると、次のようなことであると思われます。
- メロディーが難しくない曲
- コード進行が難しくない曲
- 拍子が難しくない曲
- キーが難しくない曲
- テンポが難しくない曲
- 構成が難しくない曲
これらについて、さらに詳しく考えてゆきます。
メロディーが難しくない曲
メロディーが難しくない曲とは、テーマ・メロディーが複雑なものではないということです。テーマを演奏することになるサックス奏者やトランペット奏者といったフロント楽器奏者にとっては重要なところです。サックスやトランペットがいない時にはギターやピアノの奏者がテーマを演奏することになるので、これらの楽器の奏者によっても油断はできません。難しいテーマ・メロディーとは、
- 音数が多い
- 跳躍が多い
- リズムが複雑
といった特徴が見られます。「ドナ・リー」や「コンファメーション(Confirmation)」といったビバップ曲の大半は音数も跳躍も多いでしょう。また、メロディーのリズムが複雑であるというのは、たとえ曲の拍子はよくある4分の4拍子であってもメロディーのリズムがそのように感じられない曲のことです。例えば「ストレート・ノー・チェイサー(Straight, No Chaser)」等がそうでしょう。逆に、こういった難しさが無い曲としては、「シー・ジャム・ブルース(C Jam Blues)」や「マック・ザ・ナイフ(Mack the Knife)」等があげられます。
もちろん、こういったシンプルなメロディーを本当に美しく/かっこよく演奏するのは複雑なメロディーを演奏する以上に難しいものでもあるのですが、とにかく「初心者セッションに参加する」ということを目標とする現時点では、その難しさはさておくことにします。これは以下に述べるメロディー以外(コードや構成等)の難しさに関しても同様です。今の段階では、シンプルであれば簡単であると“ひとまず”考えて話を進めます。
コード進行が難しくない曲
次に、コード進行が難しくない曲について考えます。コード進行に関して初心者の方々が難しいと思うのは、
- コードが変わる頻度が高い
- 登場するコードの種類が多い
といったことではないでしょうか。まだアドリブ演奏がおぼつかない場合、2拍ごとにコードが変わる曲よりも2小節ごとにコードが変わる曲の方が演奏しやすいでしょう。「バードランドの子守歌(Lullaby of Birdland)」は非常によく知られたスタンダードですが、曲のほとんどの部分において2拍ごとにコードが変わるので、これからセッションに行ってみようと考えている初心者の方にとっては意外と難しく感じるのではないでしょうか。逆に「オール・オブ・ミー(All of Me)」はコードが変わるのが2小節ごとなので、初心者の方であってもとっつきやすいと思います。また、コード進行に関するもう一つの難しさである「登場するコードの種類が多い」についてですが、曲の内部での一時的な転調があると必然的に出てくるコードの種類も多くなります。これも有名な曲ですが、「オール・ザ・シングス・ユー・アー(All the Things You Are)」はそういった難しさがあります(もちろん、そこがこの曲の美しさの要因の一つでもあるのですが)。逆に、一時的な転調が少ない曲は手を出しやすいと思いますが、そういった曲の例として「枯葉(Autumn Leaves)」が挙げられます。
拍子が難しくない曲
多くの人にとって4分の4拍子の曲(大多数のスタンダードがそうであるのでここでは具体的な曲名は挙げませんが)は他の拍子の曲よりも簡単であると感じるのではないでしょうか。5拍子の曲(「テイク・ファイブ(Take Five)」等)は演奏することも聴くことも少ない分、難しいと感じますよね。3拍子の曲(「ワルツ・フォー・デビー(Waltz for Debby)」等)も人によっては難しく感じるかもしれません。これは前述のコードが変わる頻度にも関することで、コードの変化が同じく1小節に1回であっても4拍子の曲であればコードが変わるまでに4拍かかりますが、3拍子の曲であれば3拍で変わるからです。ただ、3拍子でもメロディーやキーが難しくなければ(「不思議の国のアリス(Alice in Wonderland)」や「いつか王子様が(Someday My Prince Will Come)」等)挑戦してみるのもアリかと思います。
キーが難しくない曲
もちろんいずれは12キーのどのキーであっても隔てなく演奏できるようになることが望ましいのは言うまでもありませんが、現段階では易しいと感じるキー/難しいと感じるキーがあることは仕方ないです。「ラウンド・ミッドナイト(Round Midnight)」(♭6つ)や「クレオパトラの夢(Cleopatra’s Dream)」(♭7つ)は正直キビシイでしょう(笑)。また、ジャズ系の曲は♯が付く曲よりも♭が付くものが多いので、♯系の曲に関してはそれほどたくさん♯が付いていなくても(♯3つぐらいでも)苦手とする人が多いようです。従って、コンサート・キーで、♭だと3つぐらいまで、♯だと2つくらいまでが初心者でもとっつきやすいキーと言えるでしょう。
テンポが難しくない曲
テンポが難しいとは、たいていの場合は速くて難しいということです。上述の「ドナ・リー」や「コンファメーション」といったビバップ曲、あるいは「スペイン」、「アイル・リメンバー・エイプリル(I’ll Remember April)」等は、初心者の方にとってはずいぶん速いと感じるでしょう。もちろん、こういった曲をそれほど速くないテンポで演奏してみるというのも選択肢の一つです。ただ、一般的に速いイメージがある曲をゆっくりとしたテンポでうまく演奏するというのは、それはそれで難しいものです。
また、テンポが難しい曲というのは速いテンポの曲だけとは限りません。逆にスロー(♩=50〜60)な曲、つまりバラードも難しいものです。バラードをテーマ1コーラスとアドリブ・ソロ1コーラス、聴いている人に飽きさせないように演奏するためにはなかなかの技術を要します。テーマのメロディー・フェイクはもちろん、アドリブにおいてもテンポがゆっくりであるぶんコードとコンフリクトする音を弾いてしまうと悪目立ちしてしまいますし、また、起承転結の流れが見える演奏でなければ聴いている方も弾いている方もしんどくなってしまいます。バラードもいずれは是非ともチャレンジしてほしいですが、セッションに初めて行くというのならばひとまずミディアム・テンポの曲を演奏してみるというのが良いのではないでしょうか。
構成が難しくない曲
ジャズ・スタンダードには、32小節のAABA形式やABAC形式もしくは12小節のブルースといった構成のものが多いです。こういった構成の曲だと演奏中に現在地を見失う可能性も低く、初心者でも演奏しやすいと言えますね。一方、こういった形式の範疇に収まらない曲もあります。少しだけ変わったパターンとしては、36小節の曲(「オール・ザ・シングス・ユー・アー」等)がまず考えられます。36小節の曲は、32小節の曲と同じようにAABA形式やABAC形式でありながら最後の部分だけ4小節増えたものと考えてよいでしょう。36小節の曲はまだ4バースの時等に注意をすればそれほど難しくはありませんが、スタンダードの中にもダ・カーポ、ダル・セーニョ、コーダ等の反復記号が多用されている複雑な構成の曲(「スペイン」等)もあります。初めてのセッションではこういった複雑な曲はひとまず避けておいた方が無難かもしれません。また、よくある32小節の形式でありながらもエンディング等だけが少し変わったパターンになっている曲というのもあります。こう聞くと難しそうですが、エンディングをどのように演奏するかをその場で考えなくてもよいので、実はそれは初心者向きでもあるとも言えます(「黒いオルフェ(Black Orpheus)」等)。
初心者セッション向けの曲リスト
それでは、以上のことを踏まえて「初心者セッション向けの曲」リストを発表します。
- All of Me(オール・オブ・ミー)
- Autumn Leaves(枯葉)
- Bag’s Groove(バグス・グルーヴ)
- Beautiful Love(ビューティフル・ラブ)
- Black Orpheus(黒いオルフェ)
- Blue Bossa(ブルー・ボッサ)
- But Not for Me(バット・ノット・フォー・ミー)
- Bye Bye Blackbird(バイ・バイ・ブラックバード)
- C Jam Blues(シー・ジャム・ブルース)
- Days of Wine and Roses, The(酒とバラの日々)
- Fly Me to the Moon(フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン)
- I’ll Close My Eyes(瞳をとじて)
- It Could Happen to You(イット・クッド・ハプン・トゥー・ユー)
- Mack the Knife(マック・ザ・ナイフ)
- My Little Suede Shoes(マイ・リトル・スウェード・シューズ)
- Now’s the Time(ナウズ・ザ・タイム)
- The Shadow of Your Smile(いそしぎ)
- Softly, As in a Morning Sunrise(朝日のごとくさわやかに)
- Summertime(サマータイム)
- There Is No Greater love(ゼア・イズ・ノー・グレーター・ラブ)
- There Will Never Be another You(ゼア・ウィル・ネバー・ビー・アナザー・ユー)
- You’d Be So Nice to Come Home To(ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥー・カム・ホーム・トゥー)
まとめ
いかがでしょうか。この中で演奏できそうな曲はありましたか? ここに挙げた曲は計22曲ですから、黒本の収録曲数が227曲ですのでそのちょうど1割くらいですね。なお、このリストに含まれている曲が全て上述の「◯◯が難しくない」を全部みたしているというわけではありません。メロディーは難しくないけれどもコードはちょっと難しいというような曲もあるでしょう。人によって難しいと感じる部分は異なることもありますし、自分にとってどれが演奏しやすいかはそれぞれの曲を実際に練習しながら考えるとよいでしょう。また、このリストは上記の「みんながよく知っている曲」、「難しくない曲」を基準に作成しましたが、それは完全に数値化できる厳密な基準ではありませんし、筆者の主観も多少は入っています。このリストに入っていないけれどもセッション・デビューで演奏したい曲を探してみるのもよいかと思います。実際、このリストに入れるかどうかを迷って結局入れなかった曲もありますので、あなたのセッション・デビューに最適な曲がこれら以外にある可能性も大いにあります。そのような曲探しもまた音楽の楽しみに一つでもあります。皆さんのそういった試行錯誤の一助にこの記事がなることができれば嬉しく思います。
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