セッション参加に最低限必要な演奏レベル——フロント楽器編

セッション参加に最低限必要な演奏レベル——フロント楽器編

これからジャムセッションに参加しようとする人にとって内心気になることの一つが「自分の演奏技量でジャムセッションに参加してもよいのだろうか」ということではないでしょうか。もちろん他にも気になることはたくさんあるでしょう。それは例えば、セッションではどんな曲がよく演奏されるのかであったり、どんな場所でセッションが行われているのかであったり。ただ、これらはインターネットで検索すればある程度は情報が得られる疑問であり、当サイトでもその疑問に答える記事を書いています。

しかし、現在の自分がジャムセッションに参加して楽しめる演奏レベルであるのかということに関してはネット検索で答えを得るのはなかなか難しいことです。そこで、楽器別に最低限どのようなことができればジャズの初心者向けジャムセッションに参加できるか、そしてどのような演奏レベルであれば“楽しめる”のかについて書いてゆきたいと思います。ただし、これはあくまで筆者が考える目安です。「おれはそんなレベルに達してないけどセッション行くんやー!」という方がいらっしゃるのも当然で、それはそれで素晴らしいことであると言えます! ですので、これはセッションに行くかどうか迷っている方への参考として読んでいただければと思います。

最低限必要なこと——リズムに合わせてテーマを弾く

playing melody in right time image
まずはいわゆるフロント楽器、つまりサックスやトランペット等の場合について。ギター等もフロントとして扱われることもありますが、コード楽器については稿を改めますので、ひとまずここではざっくり管楽器の皆さんのことについて書きましょう。これらの楽器奏者のジャムセッションにおける最大の役割は、「テーマを演奏する」ということです。これを読んで、え? アドリブ・ソロは!? と思われたかもしれません。たしかにソロはセッションにおいて最大の楽しみであり、それが上手く出来るに越したことはありません。ただ、初心者向けセッションにおいては必ずしもできなくても構わないと筆者は考えます。ソロができなくても、演奏開始前に「ソロはまだできないので、テーマだけやらせてください!」と正直に言えばよいのです。初心者向けセッションではそんな参加者もたくさんいます。

まずはテーマを大きな間違いなく演奏できること。これが重要です。凝ったメロディー・フェイクはできなくても構いません。また、少しくらいなら間違った音を出してしまってもいいでしょう。(もちろん間違わないように頑張った方がいいですが(笑)。)それよりも、ドラムやベースやピアノとリズムを合わせてテーマを演奏できることのほうがはるかに重要です! 初心者のフロント奏者がテーマを演奏する際にしがちなリズムに関する失敗には、以下の三つがあります。

1. 全体的に速くなってしまう。
2. 全体的に遅くなってしまう。
3. いつの間にか演奏している小節が他の人とずれてしまう。

この3つを具体的に解説してゆきます。

(1)の「全体的に速くなってしまう」というのはいわゆる「走る」という状態です。この場合、そのフロント奏者は同時に演奏している共演者の音を聴けていません。それなりにテーマのメロディーを弾くことはできる(メロディーの音をきちんと追って、間違いない音を出すことはできる)けれども、自分の楽器の操作に集中するあまりに共演者が出す音を聴いたりそれに合わせることができていない状態です。個人練習の段階でiReal Pro等のマイナス・ワンを使い、自分がバックの音とリズム的に合っているかを聴きながら演奏する癖をつけるとよいでしょう。

参考:『iReal Pro

(2)の「全体的に遅くなってしまう」という場合も、(1)と同じく共演者の音を聴けていないことが考えられます。あるいは、周りの音はある程度聴けているけれども、その時のテンポでテーマ・メロディーを演奏するには楽器の操作が追いついていない状態であるかもしれません。もしそうであれば、あらかじめ演奏開始前にゆっくりなテンポで演奏するよう共演者にお願いすればいいでしょう。セッションでは多くの場合フロント奏者にテンポ指定の権利を委ねられます。例えばピアニストに「テンポはどれくらいにしますか?」と聞かれたら(あるいは聞かれなくても)、手拍子しながらテーマ・メロディーを鼻歌で軽く歌うことでどのくらいの速さがよいのかを具体的に伝えましょう。もし自分自身がどうしても速めのテンポで演奏したいのであれば、個人練習の段階でそのテンポ、もしくはそれ以上の速さでも問題なく弾けるようにしておきましょう。セッションの時に、自分一人で練習している時と寸分違わず同じテンポで演奏できるということはほぼありません。特定のBPMだけで練習するのではなく、自分が演奏したい速さの上下約20BPMぐらいは幅をもたせて練習しておくのがよいでしょう。

(3)の「いつの間にか小節がずれる」というのは、途中まではリズムの大きなずれが無く演奏できているのに、あるタイミングで1小節(あるいは0.5小節、もしくは数拍、場合によっては2小節……等)ずれてしまうというケースです。これは休符をきちんと演奏できていないことが原因である場合が多いです。例えばテーマ・メロディーが1フレーズ終わった段階で全休符の小節が1小節あったとしましょう。この1小節をきちんと演奏せずに待てなければ、他の人の演奏とずれてしまいます。この場合もマイナス・ワンを使って練習しておくことでバックの演奏とのずれの有無に気づけるようにすればいいでしょう。あるいは、テーマ・メロディーそのものが少し複雑なリズムであるためにその複雑な箇所でついつい数拍ずれてしまうということも考えられます。もしそうなのであれば、あらかじめメロディー譜をじっくりと読み、そのメロディーのリズムをしっかりと理解し、体がそのリズムを覚えておくように練習しておきましょう。

初心者がやりがちなリズムの失敗について書いてきましたが、いずれの場合でも自身の楽器の操作だけに集中しすぎず、きちんとまわりの人達が出している音を聴くことが肝心です。もう少し具体的に言うと、ドラムが出す音の周期的な様子、ウォーキング・ベースの音のタイミング、ピアノやギターによるコードの移り変わりです。このコードの移り変わりについては、コードの音を聴いて具体的にそのコード・ネームが分からなくても構いません。ただ、1小節ごとに変わってゆくハーモニーの“雰囲気”を感じとるようにしましょう。これらを気にすることによって、テーマ演奏におけるリズム的な失敗は大きく減ります。そして、リズム的に大きな間違いなくテーマを弾ければ、十分セッションに参加できるのです。

また、とにかくセッションに参加してみるためであれば、自分の好きな曲を一曲だけ、そのテーマを弾ければそれで構いません! 多くのセッションでは参加者のリクエストを聞いて、その曲をみんなで演奏します。そのリクエストは、ピアノなどのコード楽器やドラムやベースといったリズム楽器のリクエストよりもフロント楽器のリクエストが優先される場合が多く、またコード楽器やリズム楽器はそれらが入らなければセッションが成立しにくいため自分のリクエスト以外の曲でも参加が求められやすいのに対し、フロント楽器は自分以外のリクエスト曲以外には入れなくてもひとまずは問題無いからです。ですので、とにかくテーマを弾ける曲を一曲用意して、まずは実際にセッションに行ってみましょう!

さらに楽しむために

further step for horn players

とにかくテーマ・メロディーをリズムに合わせて弾ければよいということは分かっていただけたかと思いますが、ではそこからさらに一歩踏み出すにはどうすればよいか——。まずはやはりメロディー・フェイクですね。上でも書きましたが、無理して凝ったフェイクをする必要はありません。個人練習で、あるいはセッションで同じテーマ・メロディーを何度も何度も弾いていると、いつか「そのままのメロディーじゃちょっと飽きてきたなー! メロディーに変化をつけてみたいなー!」と思う時が来ます。そこがチャンス! ある特定の1音だけ半音下からずり上がるようにする。もしくは、ただ四分音符が4つ連続するだけの箇所で、スタッカートが付いた四分音符のように弾いてみる。それだけでもメロディー・フェイクをしているという雰囲気は感じられます。

メロディー・フェイクも結構できるようになってきたら、その次はソロへのチャレンジですね。まずは書き譜で1コーラスだけでいいでしょう。そして、いずれはアドリブ・ソロ! それができる頃には4バースだって怖くはなくなってきているでしょう。さらにはエンディングをどうもってゆくかを考えてみたり、イントロもピアニストにおまかせではなくフロント奏者自身も絡むイントロにしてみたり……と、これらができるようになってくるとセッションはますます楽しくなってきます! テーマをちゃんと演奏できるようになったらその次はこういったことに挑戦してゆくとよいでしょう。

まとめ

conclusion image

アドリブ・ソロやメロディー・フェイクだってまだまだできなくても、とにかくテーマをリズムに合わせて弾ければセッション参加はできます! まずは一曲テーマをしっかり練習して、実際にセッションに行ってみましょう!