【用語解説】リード・シート(lead sheet)
- 2019.02.15
- 用語解説
リード・シート【lead sheet】[名詞]
楽譜の形式の一つで、メロディーやコード等といった曲の主要な要素だけが1コーラス分だけ書かれた譜面。「Cメロ譜」とも呼ばれる。
「次の曲の―はこれです」「私は―での演奏は慣れていません」
解説
楽譜とは、楽曲の演奏されるべき(もしくは既に演奏された)音楽的要素を様々な記号によって書き表したものである。楽譜はレコードやCD、MP3等に記録された録音物とは異なり音楽を記号化したものであるということから、楽譜による記録は多かれ少なかれ楽曲の音楽的要素の抽象化を伴う。具体的な例で言うと、ある一つのフレーズの始まりから終わりにかけて徐々に強く弾くことで音が大きくなってゆく様子を楽譜で表記したいとしても、その変化を完全に正確な形で記すことはできない。したがってクレッシェンド等の記号を用いて「だんだん強く」という抽象的な意味を記載するといった方法にとどまらざるを得ない。それでもクラシック等で使われるような楽譜では作曲者や編曲者の意図がかなり詳細に楽譜に書きこまれているものである。キーや拍子はもちろん、速度記号による具体的なテンポの指示や発想記号による表現方法への指示も記載されることが多い。主となるメロディーをはじめ複数の楽器パートの演奏内容もそれぞれ書かれ、それらは一つひとつの音符に付される強弱記号やアーティキュレーションの記号等によってどのように弾くかを細かく指定される。一つの曲が何ページにもわたることも少なくなく、フルスコアと呼ばれる全楽器の全ての音が記載されている楽譜ではかなり壮大なものとなる。こういった楽譜は作曲者や編曲者の意図が可能な限り詳しく伝えられるという利点があり、そういった意図の再現が求められる演奏のためにはこのような詳細な楽譜が不可欠であるが、一方でその情報量の多さからそれらを一目見ただけで演奏に臨むのはなかなか難しい。ポピュラー・ミュージック(特にアドリブをその中核的な要素の一つとするようなジャズ)の演奏現場では、全く知らない曲や聴いたことはあっても初見演奏となる曲をオーディエンスの前でとにもかくにも演奏しなければならないということも多い。そういった場合に重要となるのは作曲家や編曲家の膨大な意図を忠実かつ厳密に再現することではなく、いかに演奏者自身の表現をオーディエンスに聴かせるか、そしていかにそれがオーディエンスに受け入れられ楽しまれる演奏にするかである。その際に有用なのは、情報量の多いフルスコアではなく、演奏に必要な最低限の情報のみが1コーラス分だけ書かれたリード・シートなのである。こうしたことから、リード・シートは多くが1ページだけ、多くても2ページほどであることが多い。
リード・シートには主要な音楽的要素のみが書かれているので、それ以外のことについては演奏者の自由に委ねられる。アドリブ演奏に慣れ親しんだ演奏者にとっては、そのような主要な音楽的要素だけを与えられる方がフルスコア等を見る場合よりも情報を素早く読み取ることができて便利である。また、1コーラス分だけしか書かれないが、特にジャズではコーラスを単位として繰り返す中でテーマ、アドリブ、別の人のアドリブ、……、テーマ、という風に続いてゆくので複数のコーラスがあえて書かれている必要はない。(テーマのコード進行とアドリブ・ソロ時のコード進行が違う場合等、例外的に2コーラス以上が記載されるリード・シートもある。)むしろ1コーラスだけしか書かれない方がシンプルで読みやすく、その1コーラスの中がどのような構成をしているのかを読み取ることにも適している。したがってジャム・セッションで用いられる楽譜はほとんどがリード・シートの形式によるものであり、たとえばクラシック畑の出身でクラシック的な楽譜に主に慣れた奏者であっても、ジャム・セッションに参加するのであればリード・シートを見て演奏する必要が出てくる。『ジャズ・スタンダード・バイブル』(いわゆる『黒本』)や『The Real Book』のような市販されているスタンダード曲集(fake book)に収められている楽譜はこのリード・シート形式である。また、オリジナル曲や少しアレンジ要素のあるスタンダード曲をセッションやライブで演奏する際に演奏者自身が自分で書いて持ってくる楽譜もリード・シート形式であることが多い。
このリード・シート形式の譜面は、日本では一部で「Cメロ譜」、あるいは単に「Cメロ」と呼ばれることもある。この語の読みは「ツェーメロ(ふ)」もしくは「シーメロ(ふ)」である。この「C」はハ長調という意味での「C」ではない(ハ長調に変えてかかれるわけではないので)。なぜ「C」なのかというと、これは恐らくこの譜面がアルトサックス等のE♭管楽器やテナー・サックスやトランペット等のB♭管楽器のための移調譜(E♭譜やB♭譜)ではなく、実音を記した譜面という意味で「Cメロ(譜)」と呼ばれるのだろう。しかし、世の中には移調楽器のためのリード・シートというのも存在するのである。『ジャズ・スタンダード・バイブル』シリーズの『ジャズ・スタンダード・バイブル in E♭』や『ジャズ・スタンダード・バイブル in B♭』、そして『The Real Book』シリーズの『THE REAL BOOK – VOLUME I Eb Edition』や『THE REAL BOOK – VOLUME I Bb Edition』がその代表である。こういった移調楽器用のリード・シートが「E♭メロ譜」や「B♭メロ譜」と呼ばれるかというと、そうではない。あえて「Cメロ譜」という語を用いて言うなら「E♭管用のCメロ譜」、「B♭管用のCメロ譜」のような、矛盾を含んだ言い方になってしまう。このように「Cメロ(譜)」という呼称は誤解を生みやすいので、当サイトでは「Cメロ(譜)」という語は使わず、この形式の譜面を一貫して「リード・シート」と呼ぶことにする。
本稿では以下でリード・シートが実際にどのようなものであるかを解説する。なお、解説にはジャズ・スタンダード曲である「Dear Old Stockholm(懐かしのストックホルム)」のリード・シート(下に掲載する譜面で、筆者が作成したもの)を例として用いる。
この曲は原題を「Ack Värmeland, du sköna(日本語訳:麗しのワームランド)」というスコットランド民謡であり、著作権的にはパブリック・ドメインとなっている。(JASRACのデータベースの検索結果のページは以下のリンクから閲覧できる。)
リード・シートに書かれる要素
ここではリード・シートを構成するそれぞれの要素について見てゆく。
タイトルと作曲者名
譜例の青線で囲まれた部分の部分のように、リード・シートにはまず曲のタイトル(題名)と作曲者名が書かれる。
タイトルは、リード・シートの上部に目立つように書かれる。この例の曲のように原題があったらそれを併記することもある。併記されるのは副題や、タイトルの日本語訳等であることもある。
作曲者名については、この例の曲は作曲者不明の民謡であるためここではそのことを示す「Traditional」という単語が書かれているが、作曲者が分かっている曲であればここにその作曲者名が記載される。歌詞も書かれているリード・シートであればここに作詞者名も記載される。(歌詞が書かれていないリード・シートでも作詞者名が記載されていることもある。)また、一般的にリード・シートは編曲内容を詳細に記載するタイプの楽譜ではないが、それでも何らかの編曲的要素がある場合はその編曲者名が記載されることもある。作詞者名と作曲者名はそれぞれがどちらであるかが分かるように書かれることもある(作詞者名は「Words by 〇〇」や「Lyric by 〇〇」や「作詞:〇〇」等、作曲者名は「Music by 〇〇」や「作曲:〇〇」等)し、あるいはどちらが作詞者名でどちらが作曲者名であるかを書かずにただ名前が並べて記載されることもある。
音部記号、調号、拍子
譜例のピンク色の丸で囲まれたの部分のように、音部記号、調号、拍子が記載される。これはリード・シート以外の形式の楽譜とも共通することである。
音部記号は最初の行にだけ書かれることもあれば、全ての行に書かれることもある。一段譜にト音記号で記載されることがほとんどであるが、曲によってはベースが弾くことが想定される部分があればそこだけヘ音記号で書かれることもある。あるいはその曲に特徴的な広い音域に渡る(もしくは複数のパートによる)ハーモニーが書かれる必要があるようであれば二段譜が用いられることもある。ただし、リード・シートとしてはそれらはどちらかというと例外的で、大多数のリード・シートは一段譜にト音記号で書かれる。なお、ベーシスト用のスタンダード曲集では『Real Book Bass Clef Edition』のように全ての曲がヘ音記号で書かれたものもある。
参考:『The Real Book: Bass Clef, Sixth Edition – Amazon』
調号はその曲が演奏される際によく使われる調で書かれるが、同じ曲でも地域や時代によって一般的とされる調が変わることもあるので、あるリード・シートと別のリード・シートとで調が違うということもしばしば見られる。なお、ヴォーカリストが自分の声域に合ったリード・シートを用意する場合は、そのキーは一般的なキーとは大きく違うこともよくある。
同じ曲であれば拍子は市販のどのリード・シートでも大抵は変わらない(一般的なジャズ・スタンダード集を編纂しようとする者であれば、ほとんどの場合「Waltz for Debby(ワルツ・フォー・デビー)」は3拍子で、「Take Five(テイク・ファイヴ)」は5拍子で書かれたものを収録するだろう——『変わったアレンジで弾くジャズ・スタンダード』とかでなければ——)が、まれに2拍子が一般的だと思う曲が4拍子で書かれていたり、逆に4拍子が普通だと考える曲が2拍子で記載されていたりすること等はある。もちろん、演奏者らが特定のアレンジのために一般的な拍子とは異なる拍子でリード・シートを書くことはある。
メロディー
この譜例で黄色で示されている部分がメロディーである。リード・シートには必ずその曲のメロディーが音符で書かれている。リード・シートに書かれるメロディーというのはテーマのメロディーのことであり、多くのジャズ演奏で行われるソロ回しの間に演奏されるメロディーに関しては書かれない。なぜならそれらはその時々の演奏者によってアドリブで行われることが常であり、そのようなアドリブを交えた演奏のための楽譜がリード・シートだからである。(逆に言えば、アドリブを全く交えない音楽のためにはリード・シートという形式の楽譜は用いられない。)なお、イントロやエンディングのメロディーがその曲に特徴的なものであればそれらはリード・シートに記載されることもあるが、それらについては後述する。
リード・シートではメロディーはシンプルに書かれる傾向がある。原曲や有名な録音で演奏されていた要素がリード・シートでは省かれ、より読みやすい形で書かれることが多い。具体的な例を挙げると、はねたリズムのメロディーであっても単純な八分音符で記載されたり、シンコペーションが無いように書かれたり、トリルのような装飾音は書かれなかったり、複数並列するメロディー・ラインがある場合でもその内の主要なメロディーだけが書かれたりする。原曲や有名な演奏に存在したメロディーの忠実な記載よりもシンプルさを優先することは初見での演奏をしやすくするものであり、また演奏者が自由にメロディー・フェイクを行う余地を残すことができる。リード・シートがあまり知らない曲でもアドリブを交えて演奏するためのものであることを考えれば、このように単純化して書くことは理にかなっているのである。このように簡略化が行われることもあるため、記載されるメロディーは各リード・シートによって少しずつ異なっていることも少なくない。ただ、あるリズム(キメ等)や装飾音やハーモニーがその曲を特徴付ける要素だと考えられる場合、もしくは演奏者自身がリード・シートを作成する際等にそういった要素の内のいくつかが重要だと考える場合は、リード・シートであってもそれらが詳細に記載されることもある。なお、各リード・シートによってメロディーが少しずつ異なるのは、リード・シート作成の際に参考にした音源が違うためであるという場合もある。
リード・シートに1行あたりに書かれるメロディーはだいたい4小節であることがわりと多い。これは、スタンダード曲の小節数が4の倍数であることがおおいからだ。ただ、そうではない小節数の曲も存在するし、あるいは小節数が4の倍数であっても紙幅の都合もあるので、必ずしも1行あたり4小節で書かれるとは限らない。
コード・ネーム
他の形式の楽譜には書かれない場合があってもリード・シートには必ず書かれる要素があるとすれば、それはコード・ネームである。コードは五線譜による具体的なヴォイシングではなくコード・ネームによって記載される。なぜならば、その方がより素早く読み取ることができ、また演奏者によるアレンジの余地があるからである。ジャズ演奏の多くはコード進行を元に伴奏やアドリブ・ソロをするので、それだけコード・ネームの記載は重要と言える。本稿の譜例では黄緑色でマークされている部分がコード・ネームである。コード・ネームは大抵はメロディーの対応する時間的位置の上部に記載される。知らない曲の伴奏やアドリブ・ソロをする時でも、このコードを読むことで大きな逸脱無く演奏できる。
リード・シートに書かれるコード・ネームも上述のメロディーと同じくシンプルに書かれることが多い。テンションの表記はされることもよくあるが最小限に留められる。ベース音を指定するための分数コードが用いられることも少なくないが、それがその曲を特徴づけるものでなければ省かれることもある。こういった簡略化はやはり即興的に演奏する余地を残すためのものであり、アドリブを交えた演奏をする場合にはもっと具体的な指定が多い楽譜に比べてこのようなリード・シートの方が読みやすい。また、これもメロディーと同じく言えることであるが、簡略化のため、あるいはリード・シート作成の参考とした音源の違いのためにコード・ネームがあるリード・シートと別のリード・シートとで少しずつ異なっていることもよくある。また、演奏者らがアレンジとして原曲や有名な演奏とは異なるコードによるリード・シートを作ることもある。
リハーサル・マーク
リハーサル・マークとは曲の部分を指定するための記号である。それらは「A」、「B」、「C」……といったアルファベットを四角で囲った記号であったり、あるいはどういった意味のある箇所であるかをもう少し具体的に示すために「Intro」、「Verse」、「Vamp」、「Interlude」、「Ending」といった単語を四角で囲ったものであったりする。本稿の譜例ではオレンジ色(環境によっては茶色に見えるかもしれない)でマークされているものである。
リード・シート以外の楽譜でもリハーサル・マークが用いられることはあり、そこでは「A」、「B」、「C」……と始まったならばその後はそのままアルファベット順に付けられてゆき、一度出てきた「A」や「B」が後からもう一度出てくるような付け方がされることは少ない。一方、リード・シートのリハーサル・マークは、例えば曲の形式がAABA形式であれば「A」、「A」、「B」、「A」というように、同じような部分が再度出てくる場合は先に付けられていた記号が再び付されるように書かれることの方が多い。全く同じではなくても似た部分が再度出てくるのであれば、それは「A」に対して「A’」と書かれることもあるし、あるいは多少の違いしかないのであれば後から出てくる方も先に出てくる部分と同じく「A」と書かれることもある。このようにすることで、演奏者はどの部分とどの部分が同じ(もしくは似ている)かを素早く確認することができる。なお、リード・シートによってはリハーサル・マークが最初から最後まで全く付されていないものもある。
イントロ、ヴァース、ヴァンプ、インタールード、エンディング
上で既に書いたように、リード・シートで書かれるメロディーは基本的にテーマ・メロディーだけである。しかし、イントロ、ヴァース、ヴァンプ、インタールード、エンディングといった要素がその曲を特徴付けるものであると考えられる場合は、それらがリード・シートに記載されることがある。本稿の譜例では水色でマークされている部分である。この例ではイントロ、ヴァンプ、そしてインタールードが書かれている。ここではそれらの要素についてそのメロディーとコード・ネームが書かれているが、場合によってはそれらの部分はコード進行だけが書かれているものもある。
市販のリード・シートの場合は特にそうであるが、リード・シートにイントロ等が書かれているからといって必ずしもその通りに演奏しなければならないわけではない。演奏の現場の判断で別のイントロを試したり、インタールードを省略したりといったことはよくある。逆に、演奏者達自身が特定のイントロ等を用いて演奏したいという場合には、それがもともとその曲を特徴付けるようなものではなかったとしても、それをリード・シートに記載することもある。
歌詞
リード・シートには歌詞が書かれているものもある。市販のリード・シートの内、楽器演奏者を対象としたものは歌詞は書かれていないことの方がどちらかというと多い。本稿の譜例もそういったリード・シートを模しているので歌詞は書いていないが、『ジャズ・スタンダード・バイブル』シリーズの『ジャズ・スタンダード・バイブル FOR VOCAL』や『The Real Book』シリーズの『The Real Vocal Book』のようにヴォーカリストを対象としたスタンダード曲集のリード・シートには歌詞も書かれている。歌詞がリード・シートに掲載される場合、メロディーの音符の下に書かれることがほとんどである。
参考:ジャズ・スタンダード・バイブル FOR VOCAL|商品一覧|リットーミュージック
参考:The Real Vocal Book – Volume I – Hal Leonard Online
リード・シートと似て非なるもの
これまでリード・シートとはどのようなものであるかを解説してきたが、ここでリード・シートと似ているため混同されやすいが異なる用途に使われるものについても触れておく。
コード・ネーム付き歌詞カード
一つ目は、コード・ネーム付き歌詞カードである。基本的には歌詞が最初から順に書かれたものであるが、コード・ネームが歌詞の対応する箇所で適宜挿入されている。歌詞カードであるので、五線譜に音符で書かれたメロディーは乗っていない。従って、そもそもこれは楽譜ではない。歌詞を中心とした形式であるので、この形式をとることができる曲は歌詞があるヴォーカル曲に限られる。弾き語りをする人にはお馴染みの形式であり、また、便利な形式でもあるだろう。
ただ、ヴォーカリストが自分で楽器を演奏しながら弾き語りをするのにコード・ネーム付き歌詞カードを用いるのであれば何の問題もないのだが、セッションやライブで伴奏を誰か別の人に頼む際、その人にコード・ネーム付き歌詞カードだけを渡して演奏してもらうのは避けるべきだろう。なぜならばこの形式はただ歌詞の間にコード・ネームが書かれているだけなので小節線の概念が無く、その曲を歌詞とともによく熟知しているのでなければどのタイミングで次のコードが出てくるかが分からないのである。また、この形式では調号や拍子記号といった音楽的要素もほとんどの場合書かれていない。楽器演奏者にとっては親和性が非常に低い形式なのである。伴奏者が必ずしもその曲を知っているとは限らないセッションやライブにおいてこの形式のものを用いて伴奏を強いることは避けるべきである。
コード進行表
もう一つがコード進行表である。これは小節線はきちんと引いてあり、各小節にコード・ネームが書かれているものである。調号や拍子記号も書かれている場合もあり、リード・シートから五線譜に書かれた音符だけを省いたものとも言える。あるいは、iRealの画面のようなものといった方が通りがよいかもしれない。これはコード・ネーム付き歌詞カードに比べれば音楽的要素の記載も多く、(音符が書かれていないので楽譜とは言い難いが)楽器演奏者にも親和性が高いものである。従ってこのような形式のものを使って演奏をすることはできる。
ただ、もしあなたがヴォーカリストやフロント奏者で、セッションやライブで共演者にある曲を一緒に演奏してほしいと頼む場合、できればコード進行表ではなくきちんとしたリード・シートを伴奏者に渡す方がいいだろう。たしかにコード進行表があれば伴奏はできるし、実際にそういう場面もよくある。しかし、他のどの曲でもなく(コード進行が似た同じような曲ではなく)“この曲をしたい”と考え、その音楽を共演者とともに作ってゆく気持ちが少しでもあるのであれば、共演者に渡すのはただのコード進行表ではなく、メロディーがきちんと書かれているリード・シートであることをお勧めしたい。なぜならば、コード進行表だけで伴奏してもらうというのは、極論すればコードが合ってさえいれば機械的な(それこそiRealのような)伴奏でいいと言っているのと同じだとも言えるからだ。そうではなく、メロディーがあるからこそ生まれる、そのメロディーにあった伴奏というのは確かに存在する。ある曲——それは世界中に無数にある楽曲の内の、かけがえのない一曲——を共に表現したいと願うのであれば、メロディーの記載は決して軽視できない要素だろう。もちろん、それぞれが練習をする段階でコード進行表やiRealを用いることはよくあるし、それはとても有効な手段の一つだと思う。コード進行を元に機械的な練習をすることは重要である。しかし、セッションやライブにおいて人前で演奏するというのは練習とは異なり、表現の場だと言える。そこではやはり、自分の表現したいものが何であるかを共演者に過不足なく適切に提示できる手段——つまりリード・シート——を用意した方がよい。
楽器演奏者は——優れた演奏者は特にそうだが——渡された譜面の端々(それは記載されたメロディーがどのように書かれているかはもちろん、コード・ネームをはじめとする様々な音楽的要素を含む)からその譜面の意図を汲み取り、演奏に反映させる。言わば譜面は音楽の設計図なのだ。それはフルスコアに比べて必要最小限の情報しか書かれないリード・シートでも変わらない。市販のリード・シートを用いるのであれば信頼のおけるものを、そして、もしそれでは自分が作る音楽の目的を十分に伝えきれないと思うのであれば、それがきちんと映し出されたリード・シートを用意したいものである。
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