【用語解説】4バース(trading 4s)
- 2019.03.31
- 用語解説
4バース【trading 4s】[名詞]
ドラマー以外のソロイストとドラマーとが4小節ごとに交互にソロを行うこと。
「次の曲はベース・ソロの後に―をします」「―は無しにしてすぐテーマに戻りましょう」
解説
ジャズの演奏ではテーマの後に各奏者が順にソロをとることが多いが、ドラム以外の楽器が皆ソロをとった後(つまりテーマに戻る直前)にドラマーがソロを行うこともある。1コーラス(もしくは数コーラス)まるまるをドラマーが一人でソロを行うこともあるが、そうではなくドラマー以外の奏者とドラマーとが数小節ごとに交代でソロをすることもある。それが4小節ごとに交代で行われる場合、これを「4バース」と呼ぶ。コーラスのほぼ半分がドラム単体での演奏となるので、ドラム以外の楽器と交互に行われる演奏行為ではあるが実質的にドラム・ソロと同じような位置付け(ドラムをフィーチャーするセクション)であると考えられる。なお、8小節ごとの交代であれば「8バース」、16小節ごとの交代であれば「16バース」と呼ぶ。本稿のタイトルは便宜上「4バース」としているが、8バース等についてもここで触れる。
この演奏行為について、日本のセッションの現場では上で述べた「4バース」(「フォー・バース」と読む)や「8バース」(「エイト・バース」と読む)等、「○バース」(○には小節数を表す任意の数字が入る)という呼び名が定着している。「バース」とは英語で書けば「bars」、つまりbar(「小節」の意)の複数形であり、4バースとは「4つの小節」、8バースとは「8つの小節」の意味し、転じてその小節数ごとにソロを交代で行うことを指す。たまに「4 verse」や「4ヴァース」という書き方を見かけるが、これは誤りである。verse(ヴァース)とは本編となる歌の前に置かれる導入部分(前歌)のことであり、小節を意味するbarsとは異なる。また、「4小節交換」や「8小節交換」のように「○小節交換」という呼び方がされることもある。なお、英語では「4 bars」や「8 bars」と言うよりも「trading 4s」(「trading fours」)や「trading 8s」(「trading eights」)のように呼ぶことが多い。また、4バース、8バース、16バース等を全てまとめて、小節数に関わらずこのようにドラムと交代で演奏する行為を日本語では「バース交換」、英語では「trading」と言う。
バース交換に入る前に
バース交換がどのようなものであるかをより具体的に見る前に、バース交換がどのような時に行われるかを解説しておく。
バース交換をするかしないか
バース交換はジャズの演奏でも全ての曲で必ず行われるというわけではない。従って、まずはバース交換をそもそも行うかどうかという選択がある。
バース交換がほとんど行われない曲調の代表がバラードである。バース交換ではドラムによるアグレッシブなソロが盛り上げの一翼を担うことが多いが、静かに聴かせるバラードはそれとは対極に位置するからだろう。また、ボサノヴァの曲でもあまりバース交換を行わないことが多い。しかし、テンポが速めのボサノヴァ曲ではバース交換をすることもあり、セッションでよく演奏される曲では「Blue Bossa(ブルー・ボッサ)」等でバース交換が行われているのを耳にする。従って、ボサノヴァだからバース交換は無しであるとは一概には言えない。
スウィングの曲では大抵の場合はバース交換を行っても不自然ではない。ただ、する曲全てにバース交換を入れていては単調になってしまうので、(特にライブでは)スウィングの曲でもバース交換を行わないこともある。セッションの場合は、バース交換はドラマー参加者の見せ場でもあるのでライブの場合に比べるとバース交換を入れる率は高いようだが、それでもやらない場合があったり、あるいは4バースの代わりにドラム・ソロにしたりすることもある。また、バース交換ではなく、複数のフロント奏者(や場合によってはコード楽器奏者)同士が数小節ずつ交互にソロをする「チェイス」(「バトル」と呼ぶこともある)をするという選択肢もある。
バース交換をするのか、しないのであれば代わりにドラム・ソロをするのか、チェイスをするのか、あるいはそのままテーマに戻るのか……という選択は、演奏開始前に相談して決めることもあるし、演奏中(特に、バース交換が行われる可能性があるタイミングの直前)に即興的に決めることもある。前者の場合、実際に演奏に入ってみると相談していたのと違うことになるという場合もある。(これはバース交換に限ったことではなく、ジャズのセッションでは諸々のことに関して実際の演奏が打ち合わせと異なるということはよくある。)後者——つまりバース交換やチェイスの有無を演奏中に決める場合、その決定権は最初にソロをとった奏者(即ち、多くの場合、テーマ・メロディーを演奏した奏者)にあることがほとんどである。なぜならば、(バース交換内でのより具体的な演奏の順番については後述するが)その人から順にバース交換に入ってゆくことになるからだ。つまり、バース交換が行われる可能性があるタイミングでその奏者がテーマ・メロディーを演奏し始めればバース交換は行われずそのままテーマに戻ることになる。演奏はせずにドラムに合図を送ればバース交換ではなくドラム・ソロになる。アドリブ演奏を始めればバース交換かチェイスになる。その奏者が続いてドラムに合図を送ればバース交換になるし、別の楽器奏者に合図を送ればチェイスになる——といった具合だ。
バース交換が行われるタイミング
前項では、バース交換をする、もしくはしない、という選択肢があるということを確認した。では、その選択を行う「バース交換が行われる可能性があるタイミング」とはどのような時であるのか。それについてここで解説する。既に本稿の冒頭で軽く触れたが、バース交換が行われる可能性があるタイミングとはドラム・ソロが行われるタイミングと同じであり、すなわち各楽器のソロ(コーラス単位で行われる、通常のソロ)が終わった後である。ライブ等では特別な効果を狙ってそれとは異なるタイミングでバース交換を行うこともあるが、セッションではバース交換は基本的に皆のソロが終わった後、最後のテーマに戻る前に行われると考えてよいだろう。
ここで少し注意すべきことがある。セッションにおけるソロは、フロント楽器とコード楽器に関してはその時演奏に加わっている全員がそれぞれ行うことがほとんどであるけれども、ベースはソロをすることもあればしないこともあるという事実である。つまり、フロント楽器とコード楽器の全員のソロが終わる段階で次はベース・ソロに行くかもしれないし、あるいはバース交換(やドラム・ソロやチェイスやテーマ)に行くかもしれないということである。この段階がまず一つ目の「バース交換が行われる可能性があるタイミング」となる。ベーシストがホスト・ミュージシャンではなく一般参加者である場合はベーシストにも見せ場を設けたいのでベースにもソロを回すのが無難であるだろうが、ベーシスト自身がソロはしなくていいと考えるかもしれない。そこで、フロント楽器とコード楽器の中の最後の奏者のソロが終わりに差し掛かりそうになったら、バース交換で最初に入らなければならない人(つまりテーマ・メロディーを演奏した人であり、最初にソロをとった人)はベーシストの様子を伺っておくとよいだろう。もしベーシストがソロをしないという様子を見せているのであればバース交換等に入ってゆけばよいということだ。なお、ライブではよくあることだがフロント奏者の独断でベースにソロを回さずにバース交換やチェイスに入ってゆくようにするのなら、そのフロント奏者は少し早めに(これから始める4バースの直前コーラスの最後の小節から)入り始めるとベース・ソロ無して4バース等にゆくことを共演者に分かってもらいやすいだろう。
上述のベーシストの様子を伺った段階で特に何もなければそのままベース・ソロに入ってもらえばよい。そして、ベース・ソロが終われば今度こそ確実に「バース交換が行われる可能性があるタイミング」となる。最初にソロをとった人(テーマ・メロディーを演奏した人)は、次のバース交換等に備えてベース・ソロが終わるのを察知しなければならない。ベース・ソロも1コーラスで終わるか複数コーラス行われるか分からないからだ。ただ、ベース・ソロの終わりは比較的分かりやすく、大抵のベーシストはソロ終盤になると4ビートを刻むようになる。そうすると、その次のコーラス頭が「バース交換が行われる可能性があるタイミング」となる。もしあなたがベーシストであるならば、そのようにソロの終わりが分かるようにすると共演者も迷うことは少ないだろう。
4バースの仕組み
ここからはバース交換がどのような仕組みになっているかを説明してゆく。ジャズ・スタンダードには1コーラスが32小節から成っているものが多い。したがって、まずはそのような1コーラス32小節の曲の場合の4バースについて解説する。なお、1コーラス32小節の曲の例として「Autumn Leaves(枯葉)」のコード進行表(譜例(1))を用いることにする。
1コーラス32小節の曲は、その1コーラスを4小節のかたまり×8つに分割することができる。その分割された各4小節を交互に「ドラム以外の楽器のソロ」と「ドラム・ソロ」として演奏を進めてゆくことが4バースである。譜例(2)で、ドラム以外の楽器のソロの部分を緑色で、ドラム・ソロの部分を赤色で示す。
最初の4小節はドラム以外の楽器のソロ(緑色部分)であり、それに続く4小節がドラム・ソロ(5〜8小節目の赤色部分)となる。その次の4小節がドラム以外の楽器のソロ(9〜12小節目の緑色部分)、そしてそれに続く4小節が再びドラム・ソロ(13〜16小節目の赤色部分)……というのが繰り返されているのが分かるだろう。
初心者の方の中には、4バースの中でドラム・ソロが行われている間は曲が進行していないものだと勘違いする人もいる。つまり、コーラスの最初の4小節にドラム以外の楽器のソロが行われたら、いったん曲の進行が止まってドラムがソロをし、そして5小節目からドラム以外の楽器のソロが始まる……という勘違いである。しかしこれは間違いで、本当はドラム・ソロの間も曲は進行している——言い換えれば、ドラムだけで5小節目から8小節目の部分を演奏している——のだ。
なお、ドラム・ソロの部分(赤色)では、ドラム以外の楽器は完全に音を出さないことが多い。一方、ドラム以外の楽器のソロの部分(緑色)では、1コーラス単位で行う通常のソロのようにソリストと他のフロント奏者以外の楽器は伴奏を行う。
また、4バースをはじめとするバース交換は必ずしも1コーラスだけで終わるとは限らない。サックス・ソロやピアノ・ソロやドラム・ソロがそうであるように、バース交換も1コーラスだけではなく数コーラス続くこともある。
4小節ソロの順番
ここまでで、1コーラス32小節の曲においてドラムがどの部分でソロをするかはお分かりいただけただろう。一方、それ以外の部分(譜例(2)の緑色部分)については「ドラム以外の楽器のソロ」という漠然とした言い方をしてきたが、そこではより具体的に誰がその各4小節のソロをするのかについてここで解説する。
譜例(2)で見たように、1コーラス32小節の曲の4バースにおいてドラム以外の楽器が4小節ソロを行う部分は1コーラスの中で4回ある。この4回を各楽器奏者のソロで回してゆくのだが、それにはいくつかのパターンがある。それは、
- フロント楽器全員とコード楽器全員で回す場合
- フロント楽器だけで回す場合
- ヴォーカリストがいる場合
- ドラマーがいない場合
といったものである。各々について以下に解説する。
フロント楽器全員とコード楽器全員で回す場合
まず最初の「フロント楽器全員とコード楽器全員で回す」パターンとは、緑色部分の各4小節がそれぞれサックス、トランペット、トロンボーン、ギター、ピアノ等といった楽器のソロとなるということである。これらの楽器奏者が、4バースが始まる前に1コーラス単位の通常のソロをとった順番で4小節ずつ演奏する。例としてテナーサックス、トランペット、ピアノ、ベース、ドラムというよくある5人編成(クインテット)での演奏の場合を考えてみよう。この編成で、4バースの前の通常のソロが「テナーサックス→トランペット→ピアノ→ベース」の順番で演奏されていた場合、4バースは以下のようになる。
1〜4小節目 テナーサックス
↓
5〜8小節目 ドラム
↓
9〜12小節目 トランペット
↓
13〜16小節目 ドラム
↓
17〜20小節目 ピアノ
↓
21〜24小節目 ドラム
↓
25〜28小節目 テナーサックス
↓
29〜32小節目 ドラム
ここで注目すべき点は、
- 緑色部分の順番は、1コーラス単位の通常のソロをとった順番である。
- ベースが4バースで4小節ソロを弾いていない。
- 4つ目の緑色部分でテナーサックスが二度目の4小節ソロを吹いている。
という3点である。
1については既に述べた。たいていのジャズ演奏ではまずテーマが演奏され、続いて各楽器の通常のソロが演奏される。「通常のソロ」とは、4バースにおける4小節単位のソロではなく、1コーラスかそれ以上、コーラス単位で行われる——バラード等、ソロが1コーラス単位ではなく2分の1コーラス単位になることもあるが——ソロのことである。4バースはその通常のソロの後に行われることが多い。4バースでドラム以外の楽器が4小節ソロをする順番は、基本的には4バースの前の通常のソロをとった順番であると考えてよいだろう。
2についてだが、ベースはほとんどの場合、4バースでの4小節ソロはとらない。後述するが、ドラムがいない編成での4バースにおいて、ドラムがいたならば4小節ソロをとったであろう部分(つまり赤色の箇所)でベースが代わりに4小節ソロをするというパターンも無くはない。しかし、そうではなくドラムが参加している一般的な編成であれば、サックスやピアノがするようにベースが4バースにおいて4小節ソロをとるということは滅多に無い。
3は、4バースで4小節ソロをとる人数が、ドラム以外の楽器が4小節ソロをとる部分(緑色の箇所)の数よりも少ない場合に起こる現象である。この例では、ドラム以外の楽器が4小節ソロを行う「枠」が4回あるのに対して、そこに入る楽器奏者が3人(テナーサックス、トランペット、ピアノ)しかいない。このように枠が一つ余っている場合、ソロ順の最初である奏者もう一度4小節ソロをするのだ。ちなみにこのような場合でもし4バースがもう1コーラス続くのであれば、4バース2コーラス目の最初の4小節はテナーサックスの次のトランペットから始まり、以下のようなオーダーとなる。
【2コーラス目】
1〜4小節目 トランペット
↓
5〜8小節目 ドラム
↓
9〜12小節目 ピアノ
↓
13〜16小節目 ドラム
↓
17〜20小節目 テナーサックス
↓
21〜24小節目 ドラム
↓
25〜28小節目 トランペット
↓
29〜32小節目 ドラム
なお、この例のような5人編成ではなくもう一人——例えばギター——がいる場合、枠が4つに対してその枠を演奏する人も4人となる。そのように枠の数とその枠を演奏する楽器奏者の数が同じ場合、各人はそれぞれ等しく1コーラス当たり1回ずつ4小節ソロをすることになる。
1〜4小節目 テナーサックス
↓
5〜8小節目 ドラム
↓
9〜12小節目 トランペット
↓
13〜16小節目 ドラム
↓
17〜20小節目 ギター
↓
21〜24小節目 ドラム
↓
25〜28小節目 ピアノ
↓
29〜32小節目 ドラム
そして、更にもう一人——例えばトロンボーン——がいて、つまり枠の数よりもその枠を演奏する楽器奏者の数が多い場合、4バースが1コーラスだけならば4小節ソロをできない奏者もいることになる。その場合でも4バース2コーラス目をするならば、2コーラス目は1コーラス目で4小節ソロをできなかった奏者から始まる。つまり、以下のような順で1コーラス目の4バースと2コーラス目の4バースが行われる。
【1コーラス目】
1〜4小節目 テナーサックス
↓
5〜8小節目 ドラム
↓
9〜12小節目 トランペット
↓
13〜16小節目 ドラム
↓
17〜20小節目 トロンボーン
↓
21〜24小節目 ドラム
↓
25〜28小節目 ギター
↓
29〜32小節目 ドラム
【2コーラス目】
1〜4小節目 ピアノ
↓
5〜8小節目 ドラム
↓
9〜12小節目 テナーサックス
↓
13〜16小節目 ドラム
↓
17〜20小節目 トランペット
↓
21〜24小節目 ドラム
↓
25〜28小節目 トロンボーン
↓
29〜32小節目 ドラム
なお、編成によってはフロント楽器奏者がいないこともあるだろう。そのような編成(例えばギター、ピアノ、ベース、ドラムの4人編成で、ソロがギター始まりであった場合)で4バースをするとすれば以下のようになる。
1〜4小節目 ギター
↓
5〜8小節目 ドラム
↓
9〜12小節目 ピアノ
↓
13〜16小節目 ドラム
↓
17〜20小節目 ギター
↓
21〜24小節目 ドラム
↓
25〜28小節目 ピアノ
↓
29〜32小節目 ドラム
4バースは、概ねここまで述べてきたような順番で行われることが多い。ただ、これはあくまで「そうである可能性が高い」というだけで、実際の演奏の現場では異なる順番になることもままある。順番が変わるケースとしてセッションでよくあるのは、フロントの人数が多くて4バースの前のソロがどのような順番で行われていたかが分からなくなるというものである。セッションの参加状況によってはフロント奏者がアルトサックスばかり4人というようなこともたまにある。そうなると、4バースに入った時点で最初のソロが誰だったかぐらいは覚えているだろうけれども、次は誰だったかな? ということになる。そんな場合は、大抵はアイ・コンタクトで、あるいはもっと直截的に「次、あなたどうぞ」等とその場で言って回してゆく。人数が多くない場合でも、例えば4バースに入る時点で一人が楽器の不調(サックスのリードが割れた、等)を感じたためにその人が自分の順番を飛ばしてもらうこともある。もしくは、フロント奏者の一人が4バースのコーラスを利用してメンバー紹介をするためにその人以外で4バースを回すということだってあるだろう。あるいは、これらのような特別な理由が無くても、単純に気分がノってきた人達が我先にと4小節ソロをとるかもしれない。このように様々な原因で順番は入れ替わるものであるが、それでも大概の場合はアイ・コンタクト、身振り・手振り、言葉を使ってうまく回してゆく。こういったことは初心者の方には最初は分かりにくいかもしれないが、基本的な法則はありつつもその場その場でフレキシブルに対応してゆくというのはある意味ジャズのセッションの面白さの一つであるとも言えるので、そういう状況になった時も恐れずその状況を楽しんでみるとよいだろう。
フロント楽器だけで回す場合
前項で解説した「フロント楽器全員とコード楽器全員で回す」パターンと並んでよくあるのが「フロント楽器だけで回す」というパターンである。このフロントだけで回すパターンでは、緑色部分の各4小節ではフロント楽器奏者だけがソロをする。例として、前項での最初の例と同じくテナーサックス、トランペット、ピアノ、ベース、ドラムという5人編成での演奏の場合を考えてみる。この編成で、4バースの前の通常のソロが「テナーサックス→トランペット→ピアノ→ベース」の順番で演奏されていた場合、4バースは以下のようになる。
1〜4小節目 テナーサックス
↓
5〜8小節目 ドラム
↓
9〜12小節目 トランペット
↓
13〜16小節目 ドラム
↓
17〜20小節目 テナーサックス
↓
21〜24小節目 ドラム
↓
25〜28小節目 トランペット
↓
29〜32小節目 ドラム
つまり、緑色部分ではギターやピアノは4小節ソロを行わないのである。これはフロントにテナーサックスとトランペットがいる場合の例だったが、もしフロントがテナーサックスだけ(つまり、テナーサックス、ピアノ、ベース、ドラムという4人編成)であれば、
1〜4小節目 テナーサックス
↓
5〜8小節目 ドラム
↓
9〜12小節目 テナーサックス
↓
13〜16小節目 ドラム
↓
17〜20小節目 テナーサックス
↓
21〜24小節目 ドラム
↓
25〜28小節目 テナーサックス
↓
29〜32小節目 ドラム
となる。つまり、4バースはテナーサックスとドラムとの交互のソロということになる。
ここまでで、「フロント楽器だけで回す場合」というのが、前項で説明した「フロント楽器全員とコード楽器全員で回す場合」からギターやピアノの4小節ソロを取り去ったバージョンであり、さほど難しい違いがあるわけではないということがお分かりいただけただろう。しかし、ここで問題が一つ出てくる。それは、今まさに始まろうとしている4バースが「フロント楽器だけで回す」やり方と「フロント楽器全員とコード楽器全員で回す」やり方のどちらになるのかという問題である。特にコード楽器奏者にとっては、フロント奏者が全員4小節ソロをとりおわった後、4小節のドラム・ソロを挟んだ次の4小節を自分がソロをするべきなのか、あるいはしないべきなのかという問題として直面することになる。もちろん、フロント楽器だけで回すのかフロント楽器全員とコード楽器全員で回すのかを演奏前や演奏中の4バース開始前に言葉や身振り・手振りで示されれば問題は無いのだが、必ずしもそういった合図があるとは限らない。誰も何も言わず4バースに突入してゆくことも多いのだ。そのような時にはどうすればよいのか。これに関してまず押さえておきたいのは、フロント楽器だけで回すのかフロント楽器全員とコード楽器全員で回すのかを決めるのは基本的にフロント奏者——その中でも特に、最初にソロをする者——であるということだ。つまり、
1〜4小節目 テナーサックス
↓
5〜8小節目 ドラム
↓
9〜12小節目 トランペット
↓
13〜16小節目 ドラム
ときて、次の17〜20小節目でテナーサックス奏者が再び吹きはじめればフロント楽器だけで回す4バース、テナーサックス奏者が再び吹きはじめないのであればフロント楽器全員とコード楽器全員で回す4バースになるのである。要するに、最初のフロント奏者がもう一度吹きはじめるかどうかでフロント楽器だけで回すのかフロント楽器全員とコード楽器全員で回すのかが決まる。従って、4バースを上手く回してゆくためには、ギタリストやピアニストは伴奏しながらもフロント奏者の挙動をよく観察しておかなければならない。また、フロント奏者自身もどちらのパターンにしようとしているのかが分かるような演奏を心がけた方がよいだろう。具体的には、フロント奏者が再度そこから4小節ソロをするのであればその小節の頭もしくはその少し前から吹きはじめるようにしたり、また、音を出す前から吹く姿勢を見せておくようにすればよい。そうすればコード楽器奏者に4小節ソロをすべきかどうか迷わせなくて済む。逆に、少し遅れて入る、それも吹く素振りを見せてなかったところから突然音を出すと、自分の4小節ソロの番だと思って既に弾きかけていたコード楽器奏者のフレーズとぶつかってしまうかもしれない。そういった事故が起こらなように、演奏中は常に互いの音と挙動を察知するようにすること、また、共演者に察知させやすいようにしておくことが重要である。
ヴォーカリストがいる場合
ここまで解説してきた4バースはどれもヴォーカリストが入らない編成でのものだった。次にここでヴォーカリストが入る場合の4バースについて説明する。
ヴォーカリストが入る編成での4バースでまず注意しなければならないのが、ヴォーカリストがスキャットで4バースに入るかどうかだ。スキャットというのはヴォーカリストにとっては普通に歌を歌うのと比べると特殊な唱法の部類に入るので、人によってスキャットを得意とする人、できない人、できるけれどもしない人がいる。ヴォーカリストがスキャットで4バースに入る場合は、そのヴォーカリストをフロント奏者の一人と認識して4バースを行えばよい。その場合は大抵ヴォーカリストがコーラス頭の4小節でスキャットによるソロをすることになるだろう。例えばヴォーカル、テナーサックス、ピアノ、ベース、ドラムという5人編成で、フロントとドラムだけで4バースを回す場合、次のようになる。
1〜4小節目 ヴォーカル
↓
5〜8小節目 ドラム
↓
9〜12小節目 テナーサックス
↓
13〜16小節目 ドラム
↓
17〜20小節目 ヴォーカル
↓
21〜24小節目 ドラム
↓
25〜28小節目 テナーサックス
↓
29〜32小節目 ドラム
だが、ヴォーカリストがいる編成の場合、たとえ他にサックスやトランペットといったフロント奏者が1人以上いても、4バースは以下のようにヴォーカルとドラムだけで行うこともある。
1〜4小節目 ヴォーカル
↓
5〜8小節目 ドラム
↓
9〜12小節目 ヴォーカル
↓
13〜16小節目 ドラム
↓
17〜20小節目 ヴォーカル
↓
21〜24小節目 ドラム
↓
25〜28小節目 ヴォーカル
↓
29〜32小節目 ドラム
また、先に述べたようにスキャットをしないヴォーカリストもいるので、その場合で4バースをするのであれば前項や前々項で説明したような楽器奏者だけによる4バースを行えばよい。ヴォーカリストもスキャットで4バースに入るかどうかは、特に事前の打ち合わせや合図が無い場合、4バースのコーラスの最初の4小節でヴォーカリストがスキャットをしだすかどうかで決まる。その直前のタイミングで、楽器奏者はヴォーカリストの動向(スキャットを始めそうかどうか)を注意して見ておくようにしたい。またヴォーカリストも、自分のスキャットから入る4バースをするのか、楽器奏者だけによる4バースを回してもらうのか、はたまた4バースをせずにテーマに戻るのか、合図を行うようにするとよいだろう。
ここまで見たのは定型的な4バースだったが、ヴォーカリストが入る編成での4バースに関して特徴的なパターンがもう一つある。それは、4バースで4小節ソロを行う順番をヴォーカリストがその場で即興的に決めるというやり方である。つまり、ドラム以外の者が4小節ソロをとる部分(緑色の箇所)で誰が4小節ソロをするか、ヴォーカリストがその場で指を指したりアイ・コンタクトをとることで決めるというものである。この場合、その順番が一般的によくある順番(まずフロント楽器、そしてコード楽器という順番)であるとは限らない。いきなりピアノ、次にトランペット、それからサックス、そしてギター……ということだってあり得る。もちろんヴォーカリスト自身のスキャットもその一人となることもある。楽器奏者は皆、合図をされたらすぐに4小節ソロを弾けるようにしておきたい。
ドラマーがいない場合
最後に、ドラマーがいない場合の4バースについて説明する。ドラマーがいない編成での演奏では、基本的には4バースを行わないことが多い。しかし、例外的なやり方ではあるが、ドラム有りの編成ではドラマーが担っていた部分(赤色の箇所)を代わりにベーシストが弾くことで「ベースとの4バース」をすることもある。つまり、
1〜4小節目 テナーサックス
↓
5〜8小節目 ベース
↓
9〜12小節目 トランペット
↓
13〜16小節目 ベース
↓
17〜20小節目 ギター
↓
21〜24小節目 ベース
↓
25〜28小節目 ピアノ
↓
29〜32小節目 ベース
ということである。目にすることは少ないかもしれないが、ドラム無しの編成での演奏ではたまにこういった4バースをすることもあるので、特にベーシストは急に振られても驚かないように知っておいた方がよいかもしれない。
4小節以外のバース交換
ここまでは全て4バースを念頭に解説してきた。だが、バース交換は4バースが最もポピュラーではあるけれども、必ずしも4小節単位で行われるとは限らない。ドラマーが初心者の場合は(あるいは他の共演者が初心者である場合でも)バース交換は4バースにしておいた方が無難ではあるが、セッションに少し慣れてきた人同士で演奏するのであれば4バースばかりだと物足りなく感じたり飽きてきたりするかもしれない。そこで4バース以外のバース交換についても知っておいた方がよいということになる。
まず、4バースに次いでよく行われる一般的なバース交換は8バースである。8バースは4バースと同じくらいの気軽さでよく用いられる。初心者にとっても8バースは4バースに次いでとっつきやすい長さのバース交換なので、4バースの代替として適している。ただ、曲のテンポによってどのバース交換が用いられやすいかに若干の傾向も見られる。アップ・テンポの曲では8バースが、そして比較的ゆったりとした曲では4バースが多い。これは、速い曲では各演奏者のソロが4小節では短く感じられるからだろう。2バースと16バースはソリスト交代までの小節数の短さ/長さから4バースや8バースに比べて用いられる場面は限られるが、それについても後述する。
4バース以外のバース交換の仕組み
4バース以外のバース交換の仕組みについて説明するが、4バースの仕組みを理解できていればそれらはとりたてて難しいものではない。4バースではドラム以外の楽器のソロとドラム・ソロとが4小節ごとにが行われるが、8バースではそれらが8小節ごと、16バースであればそれらが16小節ごと、2バースであればそれらが2小節ごとに行われるだけである。念のため、4バースの仕組みの解説に用いたのと同じ1コーラス32小節の曲であるAutumn Leavesのコード進行表を使ってそれぞれのバース交換においてどこをドラム以外の楽器の奏者が、そしてどこをドラマーがソロをするかを以下に図示する。4バースの場合と同じく、緑色部分がドラム以外の楽器がソロをとるところで、赤色部分がドラム・ソロの部分である。
まず、2バースは以下の譜例(3)のようになる。
また、8バースは以下の譜例(4)のようになる。
そして、16バースは以下の譜例(5)のようになる。
4バースでは4小節ごとの交代だったところが、2バースでは2小節ごとの交代に、8バースでは8小節ごとの交代に、そして16バースでは16小節ごとの交代になっているだけであることが図からもお分かりいただけるだろう。各緑色部分を具体的にどの(ドラマー以外の)楽器奏者がソロをとるかについても、上記「4小節ソロの順番」の項目で行なった説明の「4小節」というところをそれぞれ「2小節」、「8小節」、「16小節」と読み替えていただければ適用できるので、ここでは省略する。また、ドラム・ソロの部分ではドラム以外の楽器は完全に音を出さないことが多く、ドラム以外の楽器のソロの部分では通常のソロのようにソリストと他のフロント奏者以外の楽器は伴奏を行うということについても、2バースや8バースや16バースでも4バースの場合と同じことが言える。
何小節ずつのバース交換にするかは、演奏開始前に打ち合わせておくこともあれば、何も決めずに演奏を始めることもある。実際のセッションの現場では4バースにするだとか8バースにするだとかは決めずに演奏を始めることの方が多いだろう。そのような場合、何小節ずつのバース交換にするかはバース交換のコーラスで最初にソロをとる人のソロの長さによって決まる。つまり、最初の人が4小節でソロをやめてドラムに渡せば4バースになるし、8小節やれば8バースになる。従って、その人以外は最初の人が何小節ソロをするかについて注目しておかなければならない。4バースになったならピアニストやベーシストは5小節目からはドラム・ソロが始まるので手を止めなければならないし、ドラマーは逆にソロを始めなければならない。また、最初の人のソロが4小節で止まらず8小節以上のバース交換になるようであれば、ピアニストやベーシストは5小節目ではまだ止まってはいけないし、ドラマーもまだソロを始めるわけにはいかない。何小節ずつのバース交換にするかを決める権限がある最初のソリストも、何小節ずつになるのかを共演者が察知しやすい身振り(例えば、4小節にするならその直前でドラマーの方を振り向く等)や演奏を心がけると分かりやすいだろう。
ソリスト交代までの小節数が変化してゆくバース交換
ある一曲の中で行われるバース交換というのは、4バースと決めたら4バースだけ、8バースと決めたら8バースだけで行わなければならないかというと、そうではない。バース交換は、まず1コーラス目のバース交換を8バースで、そして2コーラス目のバース交換を4バースで……というように、ソリスト交代までの小節数を変化させることも可能なのである。(譜例(6))
特に2バースや16バースに関しては、2バースはドラムとの交代の間隔があまりに短くてせわしなく、また16バースは間隔が長いので冗長になりやすいので、バース交換を2バースだけで、もしくは16バースだけで行うということは少ない。バース交換を4バースだけで、もしくは8バースだけでするということはよくあるが、それに対して2バースや16バースは、バース交換の小節数を変えてゆく一環の中で見られることの方が多い。バース交換の小節数を変化させる場合は、大抵は小節数の多いバース交換から小節数の少ないバース交換へと変えてゆくことが多い。つまり、バース交換の1コーラス目が16バース、2コーラス目が8バース、3コーラス目が4バースという具合である。その方がだんだんとスリリングになってゆき、徐々に盛り上がる様子が面白いからだろう。なお、バース交換の小節数を変化させるタイミングはコーラス頭であることが多いが、そうではないこともある。特に4バースから2バースへの変化は、2バースに入ってからはソリスト交代の回数が多くなることもあってそれを1コーラスまるまるやるのは逆に冗長に感じることもあるので、コーラスのちょうど半分の区切りが良い所で行われたりもする。(譜例(7))
なお、こういったソリスト交代までの小節数が変化してゆくタイプのバース交換は、複数コーラスにまたがる可能性が高いためアップ・テンポの曲で行われることの方が多く、ゆっくりした曲では4バースだけ、もしくは8バースだけで1コーラス程度行われる場合が多いようだ。
1コーラス32小節ではない曲のバース交換
ここまでは4バースをはじめとするバース交換の解説をするにあたって全て1コーラス32小節の曲を前提としてきた。しかし、ジャズの曲は必ずしも1コーラスが32小節であるとは限らない。このセクションでは1コーラスが32小節ではないジャズ・スタンダードを例として、そのバース交換がどのように行われるかを見てゆく。
ブルース(「Now’s the Time」を例として)
ジャズ・スタンダードで1コーラス32小節ではない曲の形式として最も多いのがブルースだ。ブルースはほとんどが1コーラス12小節である。ここではジャズ・ブルースの典型的な例として、「Now’s the Time(ナウズ・ザ・タイム)」のコード進行表(譜例(8))を用いる。
何も考えずにブルースで4バースを1コーラスだけ行うとなると、以下の譜例(9)のようになるだろう。
これまでの譜例と同じく、緑色部分がドラム以外の楽器の4小節ソロ、赤色部分がドラムの4小節ソロである。ここで問題がいくつか出てくる。それは、
- 4バースが1コーラスだけでは短すぎる。
- 最後の4小節がドラムではないので、そこで終わりにくい。
- 8バースができない。
という問題だ。まず、短すぎてドラム・ソロが4小節×1回だけしかできない。そして、ドラム以外の楽器の4小節ソロに続いてすぐテーマが始まるというのが、バース交換はドラムで終わるという先入観も手伝ってなかなかやりにくく感じるものである。また、12は8で割り切れないので8バースができない。だが、これらの問題の大部分を一気に解決する方法がある。それは、単純にブルースではバース交換を2コーラス以上やればよいのだ。(譜例(10))
ブルースを2コーラスやれば24小節になるので、ドラムの4小節ソロは3回できるし、4バースの最後をドラムで締めることができる。つまり、1コーラス目は「ドラム以外、ドラム、ドラム以外」であったが、2コーラス目は「ドラム、ドラム以外、ドラム」というようにドラムとドラム以外の楽器との順番がひっくり返るのだ。(譜例(11))
ただ、8バースをする場合、バース交換のコーラスを2コーラスに増やすだけではやはりドラム・ソロが8小節×1回しかできないし、バース交換のコーラスをドラムで終えることはできない。ブルースで8バースをしようとするなら、さらにその倍の4コーラスでバース交換をやればよい。4コーラスというと長く思うかもしれないが、ブルースはそもそも1コーラスが12小節しかないので、実際にはバース交換を4コーラスやってもそう長くは感じないものだ。
なお、ブルースのバース交換を2コーラス以上行う場合、必ずしも2の倍数のコーラス数でなければならないというわけではない。例えば4バースを3コーラスとすると上に挙げた問題のうち2つ目の問題(最後の4小節がドラムではないので、そこで終わりにくいという問題)は残るが、それさえ気にしなければ(上手くテーマに戻るように合図等を工夫すれば)問題は無いし、実際にセッションでそのような場面を見かけることもある。
36小節の曲(「All the Things You Are」を例として)
1コーラス32小節ではない曲で、ブルースほどではないがジャズ・スタンダードに多いのが1コーラス36小節の曲だ。そこで、ここでは36小節の曲についてその代表曲とも言える「All the Things You Are(オール・ザ・シングス・ユー・アー)」のコード進行表(譜例(12))を例に解説する。
All the Things You Areのような曲の場合、最後のセクション(この譜例で言うと[D}セクション)が8小節ではなく12小節となって、合計36小節となっている。「East of the Sun(イースト・オブ・ザ・サン)」や「Star Eyes(スター・アイズ)」等も同様だ。こういった36小節の曲で4バースをするなら、最後のドラム部分だけ4小節長めの8小節にすればよい。(譜例(13))
ちなみに、最後のドラムを8小節とせずにずっと4小節交換で進み、2コーラス目では前項で説明したのブルースのようにドラムとドラム以外の楽器との順番をひっくり返すという方法も無くはないが、滅多に見かけない。
8バースの場合も同様で、最後のドラム部分だけ8小節ではなく4小節長い12小節とすればよい。(譜例(14))
サビだけが半分の小節数の曲の場合(「Speak Low」を例として)
ジャズ・スタンダードには、AABA形式の曲ではあるが[B]セクション(サビ)が[A]セクションの半分の小節数しかない曲というものもある。例えば「Speak Low(スピーク・ロウ)」は各[A]セクションがそれぞれ16小節であるのに対し、[B]セクションは8小節しかなく、1コーラス56小節の曲である。譜例(15) がそのコード進行表である(この譜例では紙幅の都合で1行が8小節になっていることに注意)。
4バースの場合は特に問題は無いだろう。ドラム以外の楽器とドラムとが何も考えず4小節ずつ交代してゆけば、最後には過不足無く終われる。(譜例(16))
問題は8バースの時だ。各[A]セクションはそれぞれ16小節あるので8小節ずつ交代してもドラム以外の楽器とドラムとが1回ずつ8小節ソロをとれる。しかし[B]セクションだけは8小節しかないので、ドラム以外の楽器が8小節ソロをした時点で[B]セクションが終わってしまう。ではどうすればいいのかというと、そのまま8小節ずつ交代してゆき、コーラス最後の[A]パート(41小節目〜56小節目)ではまずドラム、そしてドラム以外の楽器という順で8小節ソロをとる。つまりそのコーラスでは、最後の8小節をドラム以外の楽器の8小節ソロで終えることにする。そして、8バース2コーラス目はドラムの8小節ソロから始めることにするのだ。そうすれば、2コーラス目はドラム以外の楽器とドラムの演奏箇所が1コーラス目とは全く逆になる。そして、必然的に2コーラス目の最後の8小節をドラムの8小節ソロで終えることができる。(譜例(17))
この場合、必ずしも8バースを2コーラスしなければならないかというと、そうでもない。8バースを1コーラスで切り上げる場合は最後の8小節がドラム以外の楽器の8小節ソロになるが、その次にはテーマに戻ることを共演者に上手く合図さえできるのであれば問題ない。ただ、テーマをとる人自身が8バース最後の8小節ソロをしているのであれば、(この曲のメロディーがアウフタクトで始まるということも相まって)ソロの最中に合図をするのは少し難しいかもしれないが。
なお、もう一つの方法として、[B]セクションからは4バースにしてしまうという手もある。[B]の最初にソロをとる人の判断次第にはなるが、その人がそこで4小節でドラムにバトンを渡し、そのまま4小節交代で進んでしまえば問題は無い。(譜例(18))
中途半端な小節数の曲の場合(「Alone Together」を例として)
ジャズ・スタンダードの中には、一つのセクションの小節数が4の倍数ではないような曲もしばしばある。そのような曲ではバース交換はどのようにすればよいのか。ここではその一例として「Alone Together(アローン・トゥギャザー)」を見てみる。この曲はAABC形式であるという点ではよくあるスタンダード曲のようだが、[A]セクションのみがそれぞれ14小節で、4の倍数ではないというところが特徴的である。[B]セクションと[C]セクションはそれぞれ8小節なので、全体としては14+14+8+8で計44小節となっている。(譜例(19))
この曲のバース交換を上手く行うための要点を一言で言うと、各[A]セクションの最後のドラム部分を短くするということである。これは4バースの場合でも8バースの場合でも当てはまるのだが、まずは4バースの場合から説明しよう。
4バースの場合であれば、ひとまず他の曲の4バースとおなじようにドラム以外の楽器とドラムとで4小節ずつ交代しながら進んでゆく。まずドラム以外の楽器が4小節、次にドラムが4小節、そしてドラム以外の楽器が4小節、ときた時点で、[A]セクションは残り2小節しかない。そこで、続くドラムはその残り2小節だけとする。つまり、4バースであるにも関わらずドラムはここの部分だけ短くなって、4小節ではなく2小節になるのだ。4、4、4、2と進んできたので、ここで最初の[A]セクション14小節が終わる。AABC形式であるからもう一度[A]セクションがあるけれども、ここも同じように4、4、4、2と進んでゆく。その後は[B]セクションが8小節と[C]セクションが8小節なので、通常の4バースと同じように進んでゆけばよい。(譜例(20))
8バースの場合も考え方は同じだ。まずはドラム以外の楽器が8小節ソロをすると、[A]セクションはもう残り6小節しかない。従って、8バースであるにも関わらずここのドラムは6小節だけとする。もう一度[A]があるので、同様にドラム以外の楽器が8小節、ドラムが6小節とする。後は[B]セクション8小節をドラム以外の楽器、[C]セクション8小節をドラム、つまり通常の8バースと同じようにやればきっちりと1コーラスを終えられる。(譜例(21))
4バースと8バースのいずれにおいても、重要なのは特定の箇所においてドラムが短くなるということを認識しておくことだ。よくある典型的なジャズ・スタンダードの場合、ドラマーは曲調(スウィングかボサノヴァかバラードか)とテンポさえ分かっていれば知らない曲(曲構成が分からない曲)でもそれなりに演奏に加わることができてしまう。ただ、それだとこういった変則的な構成の曲には対応ができない。ドラマーも曲構成を把握できている状態で演奏に臨むか、あるいは知らない曲であるならばちゃんとリードシートを見ながら演奏すべきだろう。信頼できるドラマーはセッションやライブでもきちんと譜面を譜面台に置いて、曲構成やキメを把握するのはもちろん、メロディーや更にはハーモニーのことさえも考えて演奏する。当然、ドラム以外の楽器奏者も構成を把握しながら演奏しなければならない。ドラムの箇所が終わったら次は自分達が演奏しなければならないからだ。そして両者共に気をつけなければならないのは、共演者の音を聞き、必要に応じてアイ・コンタクトを使うこと。そうすれば変則的なバース交換でも決して難しくはない。
バース交換を成功させるコツ
セッションにおけるバース交換のありようについて解説してきたが、かなり多様なバリエーションがあるので初心者の方は驚かれたかもしれない。しかし、初心者の方が参加されるセッションではそれほど複雑なバース交換が行われることは少なく、基本的な4バースさえ押さえておけば問題はないので安心してセッションに参加してほしい。たとえ少し難しそうなバース交換(8バースであるとか、変則的な小節数の曲でのバース交換であるとか)で演奏に加わることになっても、以下の2点を意識するようにしておけば大抵はなんとか乗り切れる。その2点とは、
- 演奏中にコーラス内の現在地を把握するようにする。
- 共演者の音と挙動に耳と目を向ける。
ということだ。
1はつまり、バース交換の最中や始まる前、更には演奏中のいつでも、自分達が今どこを演奏しているのかを分かっておくようにするということだ。バース交換における失敗の何割かは自分が今どこを演奏しているかが分からなくなることに起因する。現在地が分からなくなってしまうことで自分がアドリブで入るタイミングを逸してしまったり、伴奏のタイミングを外してしまったりする。現在どこを演奏しているかが分かるようにするには、アドリブ・ソロや伴奏をしている間もテーマを頭の中で歌うようにすればよい。そのようにすることで、最初は難しいかもしれないが徐々にコーラス内での現在地を感じることができるようになる。それができるようになったら、いずれは逆に共演者に現在地を感じさせることができるようなソロもできるようになりたい。それは基本的にはコード進行感が感じられるソロということだが、広く考えれば、もうすぐソロが終わるということが感じられる演奏や、4バースではなく8バースに進むということが感じられる演奏もそれに入るかもしれない。それができればソロの交代やバース交換もより自然にできるようになるので、今はまだそれができない人も今後の射程に入れておきたい。とにかくまずは自分の現在地が分かるようになることで、バース交換でもたつくことは断然少なくなる。
2はこれまでの説明でも何度か触れたが、他の人がどのような演奏をしているのか——バース交換の文脈で言えば、他の人にソロを渡そうとしているのか、それともその人自身がまだソロを続けようとしているのか——に耳を傾けること、そして、アイ・コンタクトや身振り・手振りを見逃さないようにすることだ。自分の演奏だけに集中してしまってはそれらを聞き逃す/見逃すことになってしまう。もちろん自分の演奏を良いものにしたいと思うのは当然ではあるが、セッションは共演者と音楽的に混じり合って初めて成立するものであるので、自分が出そうとしている音にだけ意識をもっていかれてしまってはいけない。特に共演者とのやりとりがその演奏行為を特徴付けているバース交換では共演者の音と挙動に目と耳を向けることを大切にすることで俄然成功しやすくなる。
これらがバース交換を上手く進めるためのコツではあるが、やはり何度も実際に経験をしてみて初めて慣れてくるということもあるので、まだ演奏経験の浅い方もどんどんセッションの現場に足を運んでほしい。結局はそれが上達のための一番の近道であるとも言える。
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【用語解説】リード・シート(lead sheet) 2019.02.15
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